コンテンツへ移動します

資金繰り表を作っても会社が傾く理由と、本当に見るべき1つの数字

投稿日時:
投稿者:

毎月きちんと資金繰り表を作っている。にもかかわらず、月末が近づくと夜中に目が覚める。通帳の残高を眺めて、「来月は本当に大丈夫だろうか」と不安が拭えない。そんな経営者の方に向けて、この記事を書いています。

申し遅れました。私は藤田浩平と申します。新卒で信用調査会社に4年勤め、20代後半で大手ファクタリング会社に転職して8年。営業と審査の両方を見たあと、30代後半で独立し、現在は中小企業の資金繰りコンサルとして都内を拠点に活動しています。

ファクタリング会社の審査部にいた頃、私は資金繰り表を完璧に作り込んでいる会社が、翌月にあっけなく飛んだケースを何度も見てきました。表計算ソフトに緻密な予測が並び、社長は「数字は読めている」と自信満々で話す。ところが現実は、その表のとおりに動かなかったのです。

業界の中にいた人間として正直に言いますが、資金繰り表だけを頼りにしている経営は、想像以上に脆いです。この記事では、なぜ資金繰り表を作っても会社が傾くのか、その上で経営者が毎月かならず見るべき「たった1つの数字」とその使い方を、現場で見てきた事例とともにお伝えします。

資金繰り表を作っても会社が傾く3つの理由

資金繰り表を作ること自体は正しい行動です。それでもなお会社が傾く理由は、表そのものに構造的な弱さがあるからです。私が現場で見てきた典型を3つ整理します。

理由1:資金繰り表は「未来予測」でしかない

資金繰り表は、入金予定と支払予定を時系列で並べた予測表です。あくまで予測なので、現実が予測どおりに進まなければ、表は一気に意味を失います。

たとえば月末に入金予定だった売掛金が、取引先の事情で2週間ずれるだけで、表の右半分は全部書き直しになります。表のうえでは黒い数字が並んでいても、現金が手元に届くタイミングがずれた瞬間、支払いは滞ります。私が業界にいた頃、「絶対に入金される」と社長が言い切っていた1,800万円の売掛金が3週間遅延し、その間に給与日と税金の納付日が重なって会社が止まった例がありました。

予測は予測です。希望でも約束でもありません。資金繰り表を作る経営者ほど、この前提を忘れがちです。

理由2:作るだけで「読めて」いない経営者が多い

資金繰り表をExcelで作っている経営者は多いです。ただ、作って印刷して終わり、という方も同じくらいいます。

現場でよくあったのが、「先月の表と今月の表を並べて見たことがない」というケースです。月ごとの推移を追わなければ、入金サイトの伸び、支払いの前倒し、固定費の膨張といった「じわじわ進む悪化」は見えません。

資金繰り表は時系列の流れを読むための道具です。読まないなら、作っていないのと同じだと私は思っています。

理由3:構造的な問題は資金繰り表に映らない

これが最も厄介です。資金繰り表は「入る予定」と「出る予定」を並べる表なので、ビジネスの構造そのものの歪みは映らないのです。

具体的に言うと、売掛金の回収サイトが90日、買掛金の支払サイトが30日というビジネスをしている会社は、売上が伸びれば伸びるほど運転資金が不足します。資金繰り表のうえでは「3ヶ月後にどっと入金される」ように見えても、その3ヶ月の間に支払いが先行するので、現金は減り続けます。

成長しているのに現金が減る。これは資金繰り表を眺めていても気づきにくい現象です。次の章で、なぜこれが「黒字倒産」というかたちで現れるのかを見ていきます。

倒産している会社の多くは「黒字」のまま消えている

「うちは黒字だから大丈夫」という社長の言葉ほど、私が緊張するものはありません。黒字と資金繰りは、完全に別物だからです。

2025年の倒産件数は2年連続で1万件超え

東京商工リサーチの全国企業倒産状況によると、2025年の全国企業倒産は2年連続で年間1万件を超える見込みです。倒産の中身を見ると、「人手不足倒産」が441件で過去最多、「物価高倒産」も963件で過去最多を更新しました。

注目すべきは、倒産している企業の多くが従業員4人以下の小規模事業者だという点です。決算書のうえで利益が出ていた会社も、決して少なくありません。

つまり、倒産は「赤字続きで力尽きる」というイメージとは違うのです。利益はあるのに、現金が足りなくて止まる会社が、毎月800〜900件のペースで生まれている。これが今の現実です。

黒字倒産が起きるメカニズム

なぜ黒字なのに倒産するのか。仕組み自体はシンプルです。

中小機構のJ-Net21が説明しているとおり、黒字倒産は「帳簿上は利益が出ているのに、支払いに必要な資金が不足して倒産すること」を指します。原因はだいたい次の3つに集約されます。

  • 売掛金の回収より、仕入や人件費の支払いが先に来る
  • 在庫が膨らみ、現金が商品の形で寝てしまう
  • 借入金の返済元本がPL(損益計算書)には載らないが、現金は確実に出ていく

特に成長期の会社ほど危ないです。売上が増えれば売掛金も在庫も比例して膨らみます。利益は出ているのに、現金は逆に減る。資金繰り表だけ眺めていても、この「構造的な現金流出」は止まりません。

「来週には不渡り」と泣きついてきた社長の話

ファクタリング会社の審査部にいた頃、ある建設業の社長から電話がありました。「来週月曜の手形が落ちない。なんとかしてほしい」という相談です。

決算書を取り寄せると、直近3期はずっと黒字。売上も伸びていました。ところが調べてみると、元請けからの入金サイトが60日、下請けへの支払いは30日、そのうえ大型案件を受注して材料を先に大量発注していました。表のうえでは利益が積み上がっていたのに、現金は底をついていたのです。

社長は「資金繰り表は毎月作っていた」と言いました。実際に拝見したら、確かに作り込まれていました。それでも止められなかった。なぜなら、表は「いつ入金されるか」しか映さないので、「ビジネスの構造そのものが現金を吐き出す形になっている」という事実は、表からは読み取れなかったのです。

このときに痛感したのが、経営者には資金繰り表とは別に、毎月見るべきもう1つの数字がいるということでした。

本当に見るべき1つの数字「手元流動性月数」

結論から言うと、その数字は「手元流動性月数」です。現預金月商比率と呼ぶこともあります。経営の現在地を、たった1つの数字で示してくれる指標です。

計算式はたったこれだけ

手元流動性月数の計算式は、覚える価値があるほどシンプルです。

手元流動性月数 = 手元現預金 ÷ 平均月商

たとえば手元現預金が3,000万円、平均月商が1,500万円なら、手元流動性月数は2ヶ月です。電卓ひとつで出ます。

この計算には、特別な会計知識はいりません。試算表や月次決算が出ていなくても、通帳残高と過去数ヶ月の売上があれば算出できます。経営者がスマホの電卓を叩いて、その場で数字を出せる手軽さが、この指標の最大の強みです。

「売上ゼロでも何ヶ月もつか」を一発で示す

手元流動性月数が表しているのは、極端な話、「今この瞬間に売上が止まったとして、手元の現金で会社が何ヶ月持ちこたえられるか」です。

経営者にとって、これほどリアルな数字はありません。「あと2ヶ月で資金が尽きる」と分かれば、今すぐ動くべきだと判断できます。逆に「3ヶ月以上の余裕がある」と分かれば、目先の不安に振り回されずに腰を据えた経営判断ができます。

資金繰り表が未来の「予定」を並べる表だとすれば、手元流動性月数は今この瞬間の「現在地」を示す数字です。両者は補完関係にあります。

中小企業の目安は1.5〜2ヶ月

業種や規模によって幅はありますが、中小企業の手元流動性月数の目安は次のように整理できます。

手元流動性月数状態の目安
3ヶ月以上余裕あり。攻めの投資も検討可能
2ヶ月前後健全水準。多くの中小企業の合格点
1〜1.5ヶ月注意領域。改善策の検討が必要
1ヶ月未満危険水域。取引先の支払い遅延で即座に資金ショートのリスク

1ヶ月未満まで落ちている会社は、得意先からの入金を待って仕入先への支払いや給与振込をしている状態です。取引先が1社でも支払いを遅延させれば、その日のうちに資金ショートが起きます。私が業界で見てきた限り、1ヶ月を切った状態が3ヶ月続いた会社の多くは、半年以内に何らかの形で経営に支障が出ていました。

なお、業種によって妥当ラインは変わります。在庫を多く抱える製造業や卸売業は、小売業より厚めの手元流動性が必要です。業種別の目安は手元流動性比率の解説記事などにも整理されているので、自社の業種に近い水準と比較してみてください。

なぜ「手元流動性月数」が資金繰り表より強いのか

資金繰り表を否定したいわけではありません。資金繰り表は必要です。ただ、手元流動性月数には、資金繰り表にはない3つの強みがあります。

未来予測ではなく「今この瞬間の現在地」を示す

資金繰り表は予測です。当たることもあれば、外れることもあります。

一方、手元流動性月数は「今、通帳にいくらあるか」「直近の月商はいくらか」という事実だけで計算できます。予測の要素が一切入っていないので、ぶれません。経営者が現実の地面に足をつけて経営判断するための、いわば測量器具です。

予測と現実を両方持つこと。これが経営の地に足のついた判断を生みます。

1つの数字だから毎日チェックできる

資金繰り表は読み解きに時間がかかります。1枚に何十行も並ぶ数字を毎日眺める経営者は、まずいません。

手元流動性月数は1つの数字です。朝、通帳アプリを開いたついでに月商で割れば、その日の現在地が分かります。継続できる仕組みは強いです。週1回でも月1回でも、定点観測すれば変化に気づけます。

私が支援している経営者には、「月初に必ず手元流動性月数を出してください。それを12ヶ月並べて推移を見てください」と伝えています。3ヶ月推移で下降していたら、何かが悪化している証拠です。

嘘がつけない数字である

決算書や試算表は、会計処理の都合である程度の見え方を調整できます。利益も、減価償却の方法や引当金の計上で変動します。

ところが、通帳残高はごまかせません。月商も、誰が見ても同じ数字になります。手元流動性月数は、その2つを割っただけの数字なので、経営者自身も嘘をつけないのです。

「黒字だから大丈夫」と自分に言い聞かせている社長ほど、この数字を計算した瞬間に顔色が変わります。逆に言えば、本当の現在地に向き合うための、いちばん残酷で正直な数字でもあります。

手元流動性月数を改善する具体的な3ステップ

数字を測ったあとに必要なのは、行動です。手元流動性月数を改善するための具体的なステップを3つ紹介します。

ステップ1:まず今の数字を計算する

何より先に、今この瞬間の手元流動性月数を出してください。通帳の残高を全部足して、過去3ヶ月の売上の平均で割る。それだけです。

出た数字が2ヶ月以上あれば、ひとまず合格点。1.5ヶ月を切っていたら警戒、1ヶ月未満なら今日から動くべきです。

数字を出すこと自体が、最初の一歩です。「だいたい大丈夫」という感覚で経営している社長は意外と多いですが、感覚は嘘をつきます。数字は嘘をつきません。

ステップ2:CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)を縮める

手元流動性月数を構造的に改善するには、ビジネスの「現金回転」を速くする必要があります。そのために役立つのが、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)という考え方です。

CCCは「仕入代金を払ってから、売上代金が手元に戻るまでの日数」を表します。計算式はこうなります。

CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数

具体的には、次の3つに分解できます。

  • 売掛金の回収を早くする(売上債権回転日数を短くする)
  • 在庫を減らす(棚卸資産回転日数を短くする)
  • 買掛金の支払いを遅らせる(仕入債務回転日数を長くする)

中小企業の場合、いきなり全部を改善するのは無理です。私が経営者に勧めているのは、まず売掛金の回収サイト交渉から手をつけることです。長年の取引で「うちは末締め翌々月末払いで」と当たり前になっている支払条件を、勇気を出して見直す。それだけで現金回転は劇的に変わります。

ステップ3:ファクタリングは「止血剤」として理解する

手元流動性月数が1ヶ月を切っていて、改善のための時間的余裕もない。そんなときの選択肢としてファクタリングはあります。

ただし、業界の中にいた人間として正直に言いますが、ファクタリングは止血剤です。応急処置にはなりますが、根本治療ではありません。手数料を払って未来の入金を前倒しにしているだけなので、繰り返せば繰り返すほど、本来手元に残るはずだった利益が削れていきます。

悪質な業者になると、相場の数倍の手数料を提示してきたり、「2社間ファクタリング」を装った違法な貸付(給与ファクタリングなど)を勧めてきたりします。金融庁も注意喚起を出しています。

ファクタリングを検討するときは、必ず複数業者から相見積もりを取り、手数料の根拠を説明できる業者を選んでください。一社の提案を鵜呑みにするのは、絶対に避けてほしいです。そして、止血のあいだに必ず根本治療(CCCの改善、銀行融資の確保、不採算事業の整理など)を進めてください。

まとめ

資金繰り表を作ること自体は正しい行動です。それでもなお会社が傾く理由は、表が未来予測であること、読み解きに時間がかかること、構造的な問題が映らないことにあります。

その弱さを補うのが、「手元流動性月数」というたった1つの数字です。手元現預金を平均月商で割るだけ。中小企業の目安は1.5〜2ヶ月。1ヶ月を切ったら危険水域です。

経営者に毎月やっていただきたいのは、次の3つだけです。

  • 月初に手元流動性月数を計算する
  • 過去12ヶ月の推移を並べて変化を読む
  • 数字が悪化したら、売掛金・在庫・買掛金のどこに原因があるかを辿る

数字に向き合うのは、正直しんどいです。特に1ヶ月を切っているとき、その数字から目を逸らしたくなる気持ちは、現場で何百人もの経営者を見てきた私にはよく分かります。ですが、目を逸らした分だけ、選択肢は確実に減っていきます。

逆に言えば、今この瞬間に数字を出して向き合えば、まだ打てる手は必ずあります。資金繰りに切迫している場合は、一社の提案を鵜呑みにせず、複数の専門家や業者に話を聞いてください。冷静に比較できる時間を残しておくことが、最後に会社を守ります。

数字は黒字なのに会社が傾く現実を、ひとつでも減らしたい。その思いで、この記事を書きました。読んでくださった経営者の方の通帳と月商が、来月も健全な比率を保っていることを願っています。